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東京高等裁判所 昭和62年(行ケ)56号 判決

事実及び理由

一  請求の原因一(特許庁における手続の経緯)、二(本願考案の要旨)及び三(審決の理由の要点)の事実は、当事者間に争いがない。

二  そこで、原告主張の審決の取消事由の存否について判断する。

1(1)  成立に争いのない甲第二号証によれば、昭和五七年実用新案出願公告第四二三四六号公報には本願考案の技術的課題(目的)、構成及び作用効果について次のとおり記載されていることが認められる。

本願考案は、収容体に収容されてヒータで加熱された液体をポンプ機構で吐出させる電熱式エアーポツトに関するものである(同公報第一頁第二欄第二行ないし第四行)。

従来のエアーポツトは、時間の経過とともにどうしても温度が低下してしまうことから、近時、収容体を金属製にし、その収容体の外周面にヒータを設け、このヒータで収容体に収容された液体を加熱して、この液体の温度低下を防止するようにすることが考えられた。このようなポツトは、前記ヒータによつて加熱される液体が沸騰すると、高温度の蒸気が、エアーポンプが収容体内を加圧する通路を通つて蓋体内に流入し、この蓋体を加熱することになるから、蓋体に設けられたポンプ機構が熱くて操作できなくなつたり、ポンプ機構を構成するベローズが熱損するなどの問題が生ずるため、前記収容体には温度過昇防止器を設け、液体が沸騰しないように前記温度過昇防止器でヒータを制御しなければならない。しかしながら、前記温度過昇防止器を収容体の外底面に設け、たとえば収容体内の液体が定量のときにこの液体を九〇℃に保つようにしたのでは、収容体内の液体が定量以下、たとえば液体が収容体外周面に設けられたヒータと対応するような高さのとき湯沸かしすると、温度過昇防止器が設けられた収容体底部に比べ液面部分だけがヒータによつて直接的に加熱されて高温度となるから、液面から蒸気が発生し、この蒸気が前述したように蓋体を加熱して種々の問題を招くことになる(同公報第一頁第二欄第五行ないし第二頁第三欄第六行)。

本願考案は、右知見に基づき、収容体に収容された液体の量に係らず、温度過昇防止器によつて液体が沸騰することのないように前記収容体の外周面に付設されるヒータを制御することができるようにした電熱式エアーポツトを提供することを目的とし(同公報第二頁第三欄第七行ないし第一二行)、実用新案登録請求の範囲(前記本願考案の要旨)記載のとおりの構成を採用したものである。

本願考案は、右構成を採用したことにより、収容体内の液体の液面がヒータとほぼ同じレベルとなつてヒータで直接的に加熱される状態となつても、液体が沸騰する以前に液面から発生する蒸気の温度及びヒータの伝熱、放熱を前記温度過昇防止器が検知してヒータを制御するから、液体を沸騰させ、それによつて発生する高温度の蒸気でエアーポンプ機構を構成するベローズを熱損させたり、蓋体を触れることができない程高度に加熱するなどのことを防止でき、さらに、前記温度過昇防止器は収容体の外周面にその内部に突出するように一体に形成した凹所にその温度検知面を接合して取付けているため、伝熱面積が広くなり、液面から発生する蒸気との接触効率が向上し、この蒸気熱によつて液体の温度を迅速に検知することができるという効果を奏するものである(同公報第四頁第八欄第二三行ないし第三九行)。

(二) 一方、原本の存在及び成立について争いのない甲第三号証によれば、マイクロフイルムに撮影された昭和四九年実用新案登録願第〇六八六八八号の願書添付の明細書及び図面(以下単に「明細書」、「図面」という。)には、上面が開口した有底筒状の内匣と、この内匣の上部に設けられた蓋体と、この蓋体に設けられた前記内匣から液体を吐出させるポンプ機構と、前記内匣の底部外周面に付設された内匣内の液体を加熱するヒータと、前記内匣の外周面でかつ前記ヒータの上方近傍に取付けられたサーモスタツトとを具備した電熱式エアーポツトに関する考案が記載されていることが認められる。

2  一致点の認定の誤りについて

原告は、「本願考案における温度過昇防止器は、沸騰直前の温度域で作動し、当該温度域における所定温度を検知して、ヒータの加熱用コイルをオフし、以後は保温コイルのみを作動させて保温工程に切替えることにより、液体が沸騰状態に至る温度への過昇を確実に防止するようにしたものであるのに対し、引用例記載の考案のサーモスタツトは、沸騰直前の前段の温度域において第1及び第2の電熱ヒータによる加熱から、第1の電熱ヒータによる加熱へと切替えるためのスイツチに相当する機能を有するに過ぎず、沸騰直前の温度域においてはもはや作動せず、沸騰防止には何ら関与しないもので、本願考案の温度過昇防止器とはその機能を全く異にするものであるから、本願考案も、引用例記載の考案も、温度過昇防止器(後者ではサーモスタツト)を具備している電熱式エアーポツトである点で両者は一致しているとした審決の認定は誤りである」旨主張する。

前掲甲第二号証によれば、本願考案の温度過昇防止器について、本願考案の詳細な説明には、本願考案の一実施例として、「液体Lはヒータ12の加熱用コイル13と保温用コイル14とによつて加熱され、その液体温度が温度過昇防止器16の設定温度、たとえば九〇℃に上昇すると、温度検知面16aがその温度を検知して加熱用コイル13をOFFし、以後は保温用コイル14のみがONして液体Lを九〇℃に保持する(公報第三頁第六欄第六行ないし第一二行)。」と記載され、また第2図ないし第5図(別紙図面(一)参照)に基づく実験結果の説明として「温度過昇防止器16が九〇~九五℃の範囲内の温度を検知したときに上記ヒータ12をOFFするようにすれば、液体Lを沸騰させることなく高温度に保つことができる(公報第四頁第七欄第四三行ないし第八欄第二行)。」と記載されていることが認められるが、前記1(一)で認定したとおり、本願考案の要旨とする実用新案登録請求の範囲には、「上記収容体の底部外周面に付設された収容体内の液体を加熱するヒータと、(中略)凹所に温度検知面を接合した状態に取付けられた温度過昇防止器(公報第一頁第一欄第三一行ないし第三六行)」と記載されているに止まり、温度過昇防止器の検知する液体温度域及び右温度域におけるヒータとの具体的な作動関係については何ら記載されていない。したがつて、これらの点はいずれも本願考案の要旨となり得るものではないから、原告の、本願考案の温度過昇防止器についての右主張は、本願考案の要旨に基づかない主張であるといわざるを得ない。

そして、前掲甲第二号証によれば、本願考案における温度過昇防止器について、前記公報の考案の詳細な説明には、「温度過昇防止器によつて液体が沸とうすることのないように上記収容体の外周面に付設されるヒータを制御できるようにした(公報第二頁第三欄第九行ないし第一二行)」「温度過昇防止器を設け、この温度過昇防止器で上記ヒータを制御して液体温度を一定に保つようにした(公報第四頁第八欄第二一行ないし第二三行)」と記載されていることが認められ、右記載からすれば、本願考案の温度過昇防止器は、熱源を制御して温度を自動的に調整し、もつて液体が沸騰するのを防止すると共に液体温度を一定に保つものであると解せられる。一方、引用例記載の考案におけるサーモスタツトについては、「およそ八五℃以上の湯温になるとサーモスタツト32により第2の電熱ヒーター31が断電され湯温は第1の電熱ヒーター30によつて約九五℃ぐらいまで上昇され(明細書第七頁第六行ないし第九行)」「サーモスタツト32は第2の電熱ヒーター31の上部附近即ち最も温度の高くなる部分に取付けられているので、第2の電熱ヒーターの断電が正確で、水量が少なくても沸騰することはない(明細書第七頁第一九行ないし第八頁第三行)」と記載されていることが認められ、右記載からすれば、引用例記載の考案のサーモスタツ卜も、熱源を制御して温度を自動的に調整し、もつて液体の沸騰を防止すると共に液体温度を一定に保つべく機能するものであると認められる。

したがつて、本願考案における温度過昇防止器は引用例記載の考案におけるサーモスタツトに相当するとした審決の認定、判断に誤りはなく、両者はその機能を異にするとした原告の右主張は理由がない。

3  相違点(2)の判断の誤りについて

原告は、「本願考案が、収容体の内部に突出する凹所を設けたのは、右凹所に液面から発生する蒸気やヒータの伝熱・放熱との熱的接触効率の向上を求めたからである。しかるに、これを単なる部材相互の取付けの問題として理解し、その設計的事項にすぎないとした審決の判断は誤りである」と主張する。

本願考案は、前記1(一)で認定したとおり、収容体に収容した液体の量に係わらず、温度過昇防止器によつて液体が沸騰することのないように収容体の外周面に付設されるヒータを制御することのできる電熱式エアーポツトの提供を目的としたものであるところ、前掲甲第二号証によれば、前記公報の考案の詳細な説明には、収容体内部へ突出する凹所に温度過昇防止器を取付けたことについて、「なお、上記一実施例では、収容体に凹所を形成し、この凹所に温度過昇防止器を設けたが、上記凹所を形成せずに温度過昇防止器を収容体に設けるようにしてもよく、要はヒータの上方であればよい。(公報第四頁第七欄第九行ないし第一三行)」と記載されており、また第2図ないし第5図(別紙図面(一)参照)に基づく実験結果についての説明(公報第四頁第七欄第一六行ないし第八欄第一六行)をみると、専らヒータの上方近傍に温度過昇防止器を設けることの技術的意義のみが記載されて凹所形成の技術的意義については全く触れておらず、さらには、「収容体の外周面でかつ上記ヒータの上方近傍に温度過昇防止器を設け、この温度過昇防止器で上記ヒータを制御して液体温度を一定に保つようにした。したがつて、収容体内の液体の液面が上記ヒータとほぼ同じレベルとなつてヒータで直接的に加熱される状態となつても、液体が沸とうする以前に液面から発生する蒸気の温度およびヒータの伝熱、放熱を上記温度過昇防止器が検知して上記ヒータを制御するから、液体を沸とうさせ、それによつて発生する高温度の蒸気でエアーポンプ機構を構成するベローズを熱損させたり、蓋体を触れることができない程高度に加熱するなどのことを防止できるという実用上大きな利点がある。(公報第四頁第八欄第二〇行ないし第三三行)」と記載されていることが認められ、右の各記載からすれば、本願考案は、前記目的を達成するためにヒータの上方に温度過昇防止器を設ける構成を採用したもので、凹所を設け、この凹所に温度過昇防止器を設けることは右の目的を達成するために格別の技術的意義があるとは認められない。もつとも、前掲甲第二号証によれば、前記公報の考案の詳細な説明には、収容体内部に突出する凹所を設けた点について、凹所に温度過昇防止器を設けると、「伝熱面積が広くなり、液面から発生する蒸気との接触効率が向上し、この蒸発熱によつて液体の温度を迅速に検知することができるという効果を奏する。(公報第四頁第三三行ないし第三九行)」と記載されていることが認められるが、前記認定に照らすと、この効果は本願考案においては、前記目的とは別個の目的達成のための手段の付随的効果にすぎないものといわざるを得ない。

ところで、円筒体の外周面に平坦な端面を有する部材を取り付ける場合、両者の接触面を広くして取り付けを確実にするために、円筒体の外周面の一部に平坦な取り付け面を形成したり平坦な底面を有する凹所を形成することが、本件出願前に周知の技術であることは当事者間に争いのないところであるから、本願考案において、円筒体である収容体の内部に突出する凹所を形成した点は、平坦な端面を有する温度過昇防止器の取り付けに当たつての単なる設計的事項にすぎない。

そして、右の凹所を設けることによつて、伝熱面積が広くなり、蒸気との接触効率が向上することは技術上自明のことであつて、当業者であれば通常予測し得る付随的効果というべきである。

したがつて、本願考案において、収容体の内部に突出する凹所を設けた点は、感温装置等の取付けに当つて当然採用すべき設計的事項にすぎないとした審決の認定、判断に誤りはない。

4  作用効果の看過について

原告は、「引用例記載の考案におけるサーモスタツトは、沸騰直前の温度域ではもはや作動せず、沸騰防止には何ら関与しないものであり、そのようなものに審決認定の周知技術を適用してみても、それは、内匣の外周壁面側における部材取付けの問題であつて、その取付けを確実にするという程度の効果を期待できるにとどまり、凹所によつて熱交換面積を増大させ、蒸気との接触効率を向上し、いち早く液体の温度を検知するという本願考案特有の作用効果を予測することはできない」旨主張する。

しかしながら、引用例記載の考案におけるサーモスタツトも、本願考案における温度過昇防止器と同様、液体の沸騰を防止すると共に液体温度を一定に保つべく機能するものであることは前記二2で認定、判断したとおりである。そして、収容体の内部に突出する凹所を設けることによつて伝熱面積が増大し、蒸気との接触効率が向上し得ることは技術上自明のことであつて、当業者であれば審決が摘示する本件出願前周知の技術から通常予測し得る付随的効果というべきことは前記二3で判断したとおりである。

したがつて、本願考案が温度過昇防止器を収容体の内部へ突出する凹所に温度検知面を接合した状態に取付けたことの作用効果は、当業者であれば予測し得る程度のものであるとした審決の認定、判断に誤りはない。

5  以上のとおりであるから、本願考案と引用例記載の考案との一致点及び相違点並びに作用効果の予測性についての審決の認定、判断は正当であつて、審決に原告主張の違法はない。

三  よつて、審決の取消しを求める原告の本訴請求は失当としてこれを棄却する。

〔編註〕本願考案の要旨は左のとおりである。

上面が開口した有底筒状の金属製の収容体と、この収容体の上部に設けられた蓋体と、この蓋体に設けられた前記収容体から液体を吐出させるポンプ機構と、前記収容体の底部外周面に付設された収容体内の液体を加熱するヒータと、前記収容体の外周面でかつ前記ヒータの上方近傍に一体に形成され収容体の内部へ突出する凹所と、この凹所に温度検知面を接合した状態に取付けられた温度過昇防止器とを具備した電熱式エアーポツト。

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